1 SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsとは #
SUSE® Linux Enterprise Server for SAP Applicationsは、SAPユーザの特定のニーズに対処するソフトウェアとサービスのバンドルです。すべてのSAPソフトウェアソリューション用に最適化された唯一のオペレーティングシステムです。
対象となる使用例は次のとおりです。
UnixからLinuxへのマイグレーションおよびプラットフォーム変更
SAPアプライアンス
SAPクラウドの展開
SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsは、ソフトウェアコンポーネントおよびサービス提供から構成されています。サービス提供については、次の各セクションで説明します。図SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsのオファリングは、SUSEのその他の製品でも使用できるソフトウェアコンポーネントおよびサービス(緑色)とSUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsでのみ使用できるソフトウェアコンポーネントおよびサービス(青色)を示しています。
1.1 ソフトウェアコンポーネント #
図1.1「SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsのオファリング」で示されているように、SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsは、SUSE Linux Enterprise Serverをベースとしていますが、SUSE Linux Enterprise High Availabilityやインストールワークフローなどのいくつかの追加のソフトウェアコンポーネントが含まれています。これらのソフトウェアコンポーネントについては、以降のセクションで簡単に説明します。
1.1.1 SUSE Linux Enterprise Server #
現在のリリースはSUSE Linux Enterprise Server 15 SP6をベースとしています。SUSE Linux Enterprise Serverは、物理環境と仮想環境の両方でミッションクリティカルなコンピューティングに対応する非常に相互運用性の高いプラットフォームです。
1.1.2 SUSE Linux Enterprise High Availability #
このコンポーネントは次のもので構成されます。
ポリシー重視の柔軟なクラスタリング
クラスタ対応のファイルシステムとボリューム管理
継続的なデータレプリケーション
セットアップとインストール
管理ツール
リソースエージェント、SAPにも対応
仮想化対応
SUSE Linux Enterprise High Availabilityには、特にSAPアプリケーションと作業するための次の2つのリソースエージェントが用意されています。
SAPInstance
: SAP製品のインスタンスを開始および停止できます。SAPDatabase
: SAPアプリケーションがサポートしているすべてのデータベース(SAP HANA、SAP MaxDB、SAP ASE、Oracle、Sybase、IBM DB2)を開始および停止できます。
SUSE Linux Enterprise High Availabilityの詳細については、管理ガイド(https://documentation.suse.com/sles-15)および、SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsリソースライブラリ(https://www.suse.com/products/sles-for-sap/resource-library/)のホワイトペーパーおよびベストプラクティスガイドを参照してください。
1.1.3 簡素化されたSAP HANAシステムレプリケーションのセットアップ #
SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsは、SUSE Linux Enterprise High Availabilityのコンポーネントおよび2つの追加のリソースエージェント(RA)を使用したSAP HANA System Replicationをサポートしています。また、SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsには、クラスタのセットアップを簡素化するYaSTウィザードが付属しています。
1.1.3.1 SAPHana
リソースエージェント #
SUSEのこのリソースエージェントは、SAP HANAデータベースインスタンスでテイクオーバーが必要かどうかを確認することで、スケールアップシナリオをサポートします。純粋なSAPソリューションとは異なり、テイクオーバーは自動化できます。
これは親/子リソースとして設定されています。親は、プライマリモードで実行されているSAP HANAデータベースに対応し、子は同期(セカンダリ)ステータスで動作するインスタンスに対応します。テイクオーバーの場合、セカンダリ(子リソースインスタンス)を自動的に昇格して、新しいプライマリ(親リソースインスタンス)にすることができます。
このリソースエージェントは、次のスケールアップシナリオのシステムレプリケーションをサポートしています。
パフォーマンス最適化シナリオ. 同じSUSE Linux Enterprise High Availabilityクラスタの2つのサーバ(AとB)。一方はプライマリ(A)および他方はセカンダリ(B)。プライマリサーバ(A)からのSAP HANAインスタンスはセカンダリサーバ(B)に同期的に複製されます。
コスト最適化シナリオ. AとBの基本的なセットアップは、「パフォーマンス最適化シナリオ」と同じです。ただし、セカンダリサーバ(B)は、開発またはQA用の追加のSAP HANAデータベースなどの、非生産的な目的にも使用されます。運用データベースは、ハードディスクなどの永続的メモリにのみ保存されます。テイクオーバーが必要な場合、テイクオーバーが処理される前に、非生産的なサーバは停止されます。生産的なデータベースのシステムリソースは、SAPフック呼び出しスクリプトを介して可能な限り迅速に増加します。
チェーン/多層シナリオ. 3つのサーバ(A、B、およびC)。そのうちの2つが同じSUSE Linux Enterprise High Availabilityクラスタに配置されます(AとB)。3番目のサーバ(C)は、外部に配置されます。プライマリサーバ(A)のSAP HANAシステムはセカンダリサーバ(B)に同期的に複製されます。セカンダリサーバ(B)は、外部サーバ(C)に非同期的に複製されます。
AからBへのテイクオーバーが発生した場合、BとCの接続はそのままです。ただし、Bは2つのサーバ(AとC)のソースになることができません。これは「星型」トポロジであり、現在のSAP HANAバージョン(SPS11など)ではサポートされていないためです。
SAP HANAコマンドを使用して、すべき操作を手動で決定できます。
BとCの接続は切断できるため、BはAに接続できます。
外部サイト(C)へのレプリケーションがローカルシステムのレプリケーションより重要である場合、BとCの接続を維持できます。
すべてのシナリオに対して、SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsは、シングルテナントとマルチテナント(MDC)両方のSAP HANAデータベースをサポートしています。つまり、複数のSAPアプリケーションにサービスを提供するSAP HANAデータベースを使用できます。
1.1.3.2 SAPHanaTopology
リソースエージェント #
クラスタの設定をできるだけ簡単にするため、SUSEではSAPHanaTopology
リソースエージェントを開発しました。このエージェントは、SUSE Linux Enterprise High Availabilityクラスタのすべてのノードで動作し、SAP HANAシステムのレプリケーションのステータスおよび設定に関する情報を収集します。これは、通常の(ステートレス)クローンとして設計されています。
1.1.3.3 SAP HANAクラスタを設定するためのYaSTウィザード #
SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsには現在、ベストプラクティスに従って、このようなクラスタの初期セットアップを管理するYaSTウィザードが追加で付属しています。このウィザードは、パッケージyast2-sap-haの一部で、 を介してYaSTを使用して開始できます。
詳細については、第7章 「SAP HANAクラスタの設定」を参照してください。
1.1.3.4 詳細の参照先 #
詳細については、以下を参照してください。
https://documentation.suse.com/sles-15にある『管理ガイド』。
https://www.suse.com/products/sles-for-sap/resource-library/にあるリソースライブラリの「ベストプラクティス」特に、『Setting up a SAP HANA SR performance optimized infrastructure』および『Setting up a SAP HANA SR cost optimized infrastructure』を参照してください。
1.1.4 インストールワークフロー #
インストールワークフローは、SUSE Linux Enterprise ServerオペレーティングシステムとSAPアプリケーション両方のガイド付きインストールパスを提供します。詳細については、2.5項 「インストールワークフローの概要」を参照してください。
さらに、インストールワークフローは、補足メディアを使用して、サードパーティベンダーまたはお客様が拡張できます。補足メディアの作成方法の詳細については、付録C 補足メディアを参照してください。
1.1.5 ClamSAPを使用したマルウェア保護 #
ClamSAPは、ClamAVマルウェア対策ツールキットをSAP NetWeaverおよびSAP Mobile Platformアプリケーションに統合し、クロスプラットフォーム脅威検出を可能にします。たとえば、ClamSAPを使用して、SAPアプリケーションがHTTPアップロードでの悪意のあるアップロードをスキャンできるようにします。
詳細については、第11章 「ClamSAPを使用したマルウェアに対する保護」を参照してください。
1.1.6 SAP HANAセキュリティ #
SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsには、安全性の高いSAP HANAインストールの設定に役立つ追加の機能が含まれています。
1.1.6.1 SAP HANAのファイアウォール #
SAP HANAのセキュリティ保護には、多数の追加のファイアウォールルールが必要な場合があります。SAP HANAのファイアウォールセットアップを簡素化するために、SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsには、事前設定されたルールを提供し、firewalld
と統合するパッケージHANA-Firewallが含まれています。
詳細については、10.2項 「HANA-Firewallの設定」を参照してください。
1.1.6.2 SAP HANA用の強化ガイド #
ベースとなっているオペレーティングシステムを強化する方法については、SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsリソースライブラリ(https://www.suse.com/products/sles-for-sap/resource-library/)を参照してください。そこで、ドキュメント『OS Security Hardening for SAP HANA』を検索してください。
1.1.7 簡素化された運用管理 #
SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsは、簡素化された運用管理を可能にするいくつかの機能を組み合わせています。
1.1.7.1 saptune
を使用したシステムのチューニング #
システムチューニングアプリケーションsaptune
を使用すると、SAP S/4HANA、SAP NetWeaver、またはSAP HANA/SAP BusinessOneと共に使用するためにSAPで推奨するようにシステムを自動的かつ包括的にチューニングできます。これを行うために、saptune
は、tuned
プロファイルを有効にします。以上により、使用しているハードウェアコンポーネントによって、使用可能なRAM容量などいくつかのカーネルパラメータをチューニングできます。
詳細については、第8章 「saptune
を使用したシステムのチューニング」を参照してください。
1.1.7.2 SAPアプリケーションの依存関係を提供するパターン #
SAPアプリケーションのソフトウェア依存関係の取り扱いを簡素化するため、SUSEでは、特定のアプリケーションに関連する依存関係RPMパッケージを組み合わせた複数のパターンを作成しました。
ソフトウェアパターンのパッケージの選択は、SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsの特定のリリース(サービスパックまたはメジャーバージョン)の開発中に定義されます。このパッケージの選択は、この特定のリリースの有効期間にわたって維持されます。ご使用中のSUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsのバージョンよりも後でリリースされたSAPアプリケーションで作業する場合、依存関係がパターンから欠落している場合があります。
SAPアプリケーションの依存関係に関する明確な情報については、SAPが提供するドキュメントを参照してください。
1.1.7.3 ClusterTools2
#
ClusterTools2
には、CorosyncおよびPacemakerのクラスタのセットアップと管理を支援するツールが用意されています。その中には、可用性の高いシステムリソースの作成に役立つwow
や、クラスタを管理できるClusterService
があります。
また、ClusterTools2
では、通常のクラスタタスクを自動化するスクリプトを提供します。
チェックを実行するスクリプト。たとえば、システムが
pacemaker
クラスタを作成するために正しく設定されているかどうかの確認に使用。設定を簡素化するスクリプト。たとえば、Corosync設定の作成に使用。
システムを監視するスクリプトと、システム情報を表示または収集するスクリプト。たとえば、ログファイル内の既知のエラーパターンを見つけるために使用。
詳細については、パッケージ ClusterTools2.に含まれている、各ツールのマニュアルページを参照してください。
1.2 ソフトウェアリポジトリのセットアップ #
SUSE Linux Enterpriseに基づくオペレーティングシステムに含まれるソフトウェアはRPMパッケージとして配布されます。このパッケージは、他のパッケージに依存する可能性のあるインストールパッケージの形式です。サーバまたはインストールメディアで、これらのパッケージはソフトウェアリポジトリ(「チャネル」と呼ばれる場合もある)に保存されます。
デフォルトで、SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsを実行しているコンピュータは、複数のリポジトリからパッケージを受信するように設定されています。各標準リポジトリには、最初に出荷されたときのソフトウェアの状態を示す「プール」バリアントがあります。「プール」バリアントのソフトウェアに対する最新の保守更新を含む「更新」バリアントもあります。
インストール中にシステムを登録した場合は、リポジトリセットアップに以下が含まれている必要があります。
コンテンツ |
ベースリポジトリ(「プール」) |
更新リポジトリ |
---|---|---|
SUSE Linux Enterprise Serverのベースパッケージ |
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SUSE Linux Enterprise Serverの基本的なサーバ機能 |
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SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsに固有のパッケージ |
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SUSE Linux Enterprise High Availabilityに固有のパッケージ |
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このセクションの表は、「デバッグ情報」および「ソース」リポジトリを示していません。これらも設定されていますが、デフォルトで無効になっています。「デバッグ情報」リポジトリには、通常のパッケージをデバッグするために使用可能なパッケージが含まれています。「ソース」リポジトリには、パッケージのソースコードが含まれています。
インストール方法に応じて、インストールメディアである、SLE-15-SP6-SAP-15.6-0
が表示される場合もあります。上記のすべてのベースソフトウェアリポジトリのパッケージが含まれています。
SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsには独自のリポジトリがあるため、SUSEは、SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applications固有のパッケージおよびパッチを出荷できます。
SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applications 11とは異なり、Extended Service Pack Overlay Support (ESPOS)に関連する更新は、Update
リポジトリから直接出荷されます。これは、設定される個別のESPOSリポジトリがないことを意味します。
標準リポジトリに加えて、インストール中または実行中のシステムからYaSTまたはSUSEConnect
コマンドを使用してSLEのモジュールおよびSLEの拡張機能を有効にできます。
SUSE Linux Enterprise製品ラインで使用できるすべてのモジュールおよび拡張機能については、https://documentation.suse.com/sles-15/html/SLES-all/art-modules.htmlを参照してください。
SUSE Package Hubの詳細については、A.3項 「SUSE Package Hub」を参照してください。モジュールおよび拡張機能のライフサイクルおよびサポートについては、1.3項 「含まれるサービス」を参照してください。
1.3 含まれるサービス #
- 「Extended Service Pack Overlap Support (ESPOS)」
SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsの購読には、Extended Service Pack Overlap Support (ESPOS)が含まれています。これにより、2つの連続するサービスパックのサポート期間の重複期間が3年延長されます。この期間中、長期サービスパックサポート(LTSS)の条項に従ってサポートおよび関連するすべての保守更新を受け取ります。
Extended Service Pack Overlap Supportの場合、6カ月のみではなく3年半以内にサービスパックのマイグレーションを実行できます。このため、マイグレーションを容易にスケジュールし、時間の制約が軽減された状況でマイグレーション前にテストを行うことができます。追加コストを支払うことでSUSEはLTSSも提供します。LTSSでは、ESPOS期間の終了後に特定のサービスパックのサポートを受けることができます。SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsには、1年半の一般的なサポートとそれぞれのサービスパックに対する3年間のESPOSが含まれています。
各SLEファミリの最後のサービスパックにはESPOSは含まれていません。これにはESPOSの代わりに一般的なより長期のサポート期間が含まれています。そのため、LTSSは最後のサービスパックに対してのみ使用できます。その他すべてのサービスパックには3年間のESPOSがすでに含まれています。これはLTSSと同じです。
詳細については、次のリソースを参照してください。
製品ライフサイクルサポートポリシー: https://www.suse.com/support/policy-products/#sap
製品別のライフサイクル日付: https://www.suse.com/lifecycle/
長期サービスパックサポート: https://www.suse.com/products/long-term-service-pack-support/
- 「SUSE Linux Enterprise Server Priority Support for SAP Applications」
SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsの購読には、SUSE Linux Enterprise Server Priority Support for SAP Applicationsが含まれています。SAPから直接SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsのテクニカルサポートを提供します。SUSE Technical SupportおよびSAPのサポートエンジニアによってジョイントサポートインフラストラクチャが提供されます。これはSAP Resolveに基づき、SAPとSUSEの両方とのシームレス通信を提供します。この「One Face to the Customer」(お客様に対する一元窓口)サポートモデルによって、複雑さが軽減され、総所有コストが低減されます。
詳細については、『SAP Note 1056161: SUSE Priority Support for SAP Applications』(https://launchpad.support.sap.com/#/notes/1056161)を参照してください。
モジュールおよび拡張機能のライフサイクルはSLES for SAPとは異なります。SUSEではモジュールおよび拡張機能に対して異なるサポートが提供されます。
モジュール:
ライフサイクル. モジュールによって異なります。
サポート. 最新のパッケージのみがサポートされます。サポートはSUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsの購読に含まれています。追加の登録キーは必要ありません。
拡張機能
ライフサイクル. SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsとともに通常リリースが調整されます。
サポート. サポートは利用できますが、SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsの購読に含まれていません。追加の登録キーが必要です。
サポートされない拡張機能(SUSE Package HubおよびSUSE Software Development Kit)
ライフサイクル. SUSE Linux Enterprise Server for SAP Applicationsとともに通常リリースが調整されます。
サポート. セキュリティおよびパッケージングの問題の修正以外のサポートはありません。追加の登録キーは必要ありません。