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SUSE Edge 3.3.1ドキュメント

『SUSE Edgeドキュメント』をお読みいただきありがとうございます。このドキュメントには、高レベルアーキテクチャの概要、クイックスタートガイド、検証済みの設計、コンポーネントの使用に関するガイダンス、サードパーティ統合、エッジコンピューティングインフラストラクチャとワークロードを管理するためのベストプラクティスが記載されています。

1 SUSE Edgeとは

SUSE Edgeは、インフラストラクチャとクラウドネイティブなアプリケーションをエッジにデプロイするという独自の課題に対処することに特化した、緊密に統合されて包括的に検証されたエンドツーエンドのソリューションです。SUSE Edgeが重点を置いているのは、独創的でありながら高い柔軟性とスケーラビリティを持つセキュアなプラットフォームを提供し、初期デプロイメントイメージの構築からノードのプロビジョニングとオンボーディング、アプリケーションのデプロイメント、可観測性、ライフサイクル全体の運用にまで対応することです。このプラットフォームは、最良のオープンソースソフトウェアに基づいてゼロから構築されており、SUSEが持つ、30年にわたってセキュアで安定した定評あるSUSE Linuxプラットフォームを提供してきた歴史と、Rancherポートフォリオによって拡張性に優れ機能豊富なKubernetes管理を提供してきた経験の両方に合致するものです。SUSE Edgeは、これらの機能の上に構築されており、小売、医療、輸送、物流、通信、スマート製造、産業用IoTなど、さまざまな市場セグメントに対応できる機能を提供します。

2 設計理念

このソリューションは、顧客の要件や期待はさまざまであるため「万能」なエッジプラットフォームは存在しないという考え方に基づいて設計されています。エッジデプロイメントにより、実に困難な問題を解決し、継続的に進化させることが要求されます。たとえば、大規模なスケーラビリティ、ネットワークの可用性の制限、物理的なスペースの制約、新たなセキュリティの脅威と攻撃ベクトル、ハードウェアアーキテクチャとシステムリソースのバリエーション、レガシインフラストラクチャやレガシアプリケーションのデプロイとインタフェースの要件、耐用年数を延長している顧客ソリューションといった課題があります。こうした課題の多くは、従来の考え方(たとえば、データセンター内やパブリッククラウドへのインフラストラクチャやアプリケーションのデプロイメント)とは異なるため、はるかに細かく設計を検討し、一般的な前提の多くを再検討する必要があります。

たとえば、SUSEはミニマリズム、モジュール性、操作のしやすさに価値を見出しています。システムは複雑化するほど故障しやすくなるため、エッジ環境ではミニマリズムが重要です。数百、数十万カ所に及ぶとなると、複雑なシステムは複雑な故障が発生します。また、SUSEのソリューションはモジュール性を備えているため、ユーザの選択肢を増やしながら、デプロイしたプラットフォームが不必要に複雑になることを解消できます。さらに、ミニマリズムおよびモジュール性と、操作のしやすさとのバランスを取ることも必要です。人間はプロセスを何千回も繰り返すとミスを犯す可能性があるため、プラットフォーム側で潜在的なミスを確実に回復し、技術者が現場に出向かなくても済むようにすると同時に、一貫性と標準化を実現するよう努める必要もあります。

3 高レベルアーキテクチャ

SUSE Edgeの高レベルシステムアーキテクチャは、「管理」クラスタと「ダウンストリーム」クラスタの2つのコアカテゴリに分けられます。管理クラスタは1つまたは複数のダウンストリームクラスタのリモート管理を担当しますが、特定の状況下では、ダウンストリームクラスタはリモート管理なしで動作する必要があります。たとえば、エッジサイトに外部接続がない場合や独立して動作する必要がある場合などです。SUSE Edgeでは、管理クラスタとダウンストリームクラスタの両方の動作に利用される技術コンポーネントは大部分が共通していますが、システム仕様と最上位に位置するアプリケーションが異なる場合があります。すなわち管理クラスタはシステム管理とライフサイクル操作を有効にするアプリケーションを実行しますが、ダウンストリームクラスタはユーザアプリケーションを提供するための要件を満たします。

3.1 SUSE Edgeで使用されるコンポーネント

SUSE Edgeは、既存のSUSEとRancherのコンポーネントと、エッジコンピューティングに必要な制約や複雑さに対応できるようにEdgeチームが構築した追加機能とコンポーネントで構成されています。管理クラスタとダウンストリームクラスタの両方で使用されるコンポーネントは、高レベルなアーキテクチャ図とともに以下に説明しますが、これは網羅的なリストではないことに注意してください。

3.1.1 管理クラスタ

SUSE Edge管理クラスタ
  • 管理: これは、接続されたダウンストリームクラスタのプロビジョニングとライフサイクルの管理に使用されるSUSE Edgeの中核です。管理クラスタには通常、以下のコンポーネントが含まれます。

    • Rancher Prime (第5章 「Rancher)によるマルチクラスタ管理により、ダウンストリームクラスタのオンボーディングとインフラストラクチャおよびアプリケーションの継続的なライフサイクル管理のための共通ダッシュボードが可能になり、包括的なテナント分離とIDP (アイデンティティプロバイダ)統合、サードパーティの統合および拡張のための大規模なマーケットプレイス、ベンダーニュートラルなAPIも提供されます。

    • SUSE Multi-Linux Managerを使用したLinuxシステム管理により、ダウンストリームクラスタ上で実行される基礎となるLinuxオペレーティングシステム(*SUSE Linux Micro (第9章 「SUSE Linux Micro))の自動的なLinuxパッチおよび設定管理が可能になります。このコンポーネントはコンテナ化されていますが、現時点では他の管理コンポーネントとは別のシステムで実行する必要があるため、上の図では「Linux管理」とラベル付けされています。

    • 特定のSUSE Edgeリリースへの管理クラスタコンポーネントのアップグレードを処理する専用のライフサイクル管理(第23章 「Upgrade Controller)コントローラ。

    • Elemental (第13章 「Elemental)を使用したRancher Primeへのリモートシステムのオンボーディングにより、接続されたエッジノードを目的のKubernetesクラスタに遅延バインディングしたり、GitOps経由でアプリケーションをデプロイメントしたりできます。

    • Metal3 (第10章 「Metal3)、MetalLB (第19章 「MetalLB)、およびCAPI (Cluster API)インフラストラクチャプロバイダによるオプションの完全なベアメタルライフサイクルおよび管理サポートにより、リモート管理機能を備えたベアメタルシステムの完全なエンドツーエンドのプロビジョニングが可能になります。

    • ダウンストリームクラスタとそれらに存在するアプリケーションのプロビジョニングとライフサイクルの管理のためのFleet (第8章 「Fleet)と呼ばれるオプションのGitOpsエンジン。

    • 管理クラスタ自体を支えるのは、ベースオペレーティングシステムとしてのSUSE Linux Micro (第9章 「SUSE Linux Micro)と、管理クラスタアプリケーションをサポートするKubernetesディストリビューションとしてのRKE2 (第16章 「RKE2)です。

3.1.2 ダウンストリームクラスタ

SUSE Edgeダウンストリームクラスタ
  • ダウンストリーム: これは、エッジでユーザワークロードを実行するために使用されるSUSE Edgeの分散部分です。つまり、エッジの場所自体で実行されるソフトウェアであり、通常は次のコンポーネントで構成されます。

    • K3s (第15章 「K3s)やRKE2 (第16章 「RKE2)などのセキュアで軽量なディストリビューションを含む、Kubernetesディストリビューションの選択肢(RKE2は、政府機関や規制産業での使用に耐えるように強化、認定、最適化されています)。

    • SUSE Security (第18章 「SUSE Security)を使用するとイメージ脆弱性スキャン、ディープパケットインスペクション、リアルタイム脅威および脆弱性保護のようなセキュリティ機能が有効になります。

    • SUSE Storage (第17章 「SUSE Storage)によるソフトウェアブロックストレージにより、軽量で永続的、弾力性があり、拡張可能なブロックストレージが可能になります。

    • SUSE Linux Micro (第9章 「SUSE Linux Micro)を搭載した、軽量でコンテナに最適化された堅牢なLinuxオペレーティングシステムで、エッジでのコンテナや仮想マシンの実行に不変で耐障害性に優れたOSを提供します。SUSE Linux Microは、 AArch64およびAMD64/Intel 64アーキテクチャの両方で使用でき、レイテンシの影響を受けやすいアプリケーション(通信事業者のユースケースなど)向けのリアルタイムカーネルもサポートしています。

    • 接続されたクラスタ(つまり、管理クラスタに接続しているクラスタ)には、Rancher Primeへの接続を管理するためのRancher System Agentと、SUSE Multi-Linux Managerからの指示を受けてLinuxソフトウェアの更新を適用するためのvenv-salt-minionの2つのエージェントがデプロイされます。これらのエージェントは、切断されたクラスタの管理には必要ありません。

3.2 接続

SUSE Edge接続アーキテクチャ

上記のイメージは、接続されたダウンストリームクラスタと、それらの管理クラスタへの接続に関する高レベルアーキテクチャの概要を示しています。管理クラスタは、ダウンストリームクラスタとターゲット管理クラスタとの間のネットワーキングの可用性に応じて、オンプレミスとクラウドの両方の容量で、さまざまな基礎となるインフラストラクチャプラットフォーム上にデプロイできます。これが機能するための唯一の要件は、ダウンストリームクラスタノードを管理インフラストラクチャに接続するネットワークでアクセス可能なAPIとコールバックURLです。

この接続が確立されるメカニズムは、ダウンストリームクラスタのデプロイメントのメカニズムとは異なるものであることを認識することが重要です。この詳細については、次のセクションでさらに詳しく説明しますが、基本的な理解を深めるために、接続されたダウンストリームクラスタが「管理」クラスタとして確立される主なメカニズムは3つあります。

  1. ダウンストリームクラスタはまず「切断された」容量でデプロイされ(Edge Image Builder (第11章 「Edge Image Builder)経由)、接続が許可されると、管理クラスタにインポートされます。

  2. ダウンストリームクラスタは、組み込みオンボーディングメカニズム(たとえばElemental (第13章 「Elemental)経由)を使用するように設定され、初回ブート時に管理クラスタに自動的に登録されるため、クラスタ設定の遅延バインディングが許可されます。

  3. ダウンストリームクラスタにはベアメタル管理機能(CAPI + Metal3)がプロビジョニングされており、クラスタがデプロイされ、設定されると(Rancher Turtlesオペレータ経由)管理クラスタに自動的にインポートされます。

注記
注記

大規模なデプロイメントの規模に対応し、地理的に分散した環境における帯域幅とレイテンシの問題を最適化し、停止時や管理クラスタのアップグレード時の混乱を最小限に抑えるために、複数の管理クラスタを実装することが推奨されます。現在の管理クラスタのスケーラビリティの限界とシステム要件については、こちらをご覧ください。

4 一般的なEdgeデプロイメントパターン

動作環境とライフサイクル要件はさまざまであるため、SUSEでは、SUSE Edgeを運用する市場セグメントやユースケースに大まかに一致する別個のデプロイメントパターンを多数サポートしています。また、これらの各デプロイメントパターンに対応するクイックスタートガイドを作成し、ユーザのニーズに基づいてSUSE Edgeプラットフォームに習熟できるようにしています。以下に、現在サポートされている3つのデプロイメントパターンを、各クイックスタートページへのリンクとともに説明します。

4.1 ダイレクトネットワークプロビジョニング

ダイレクトネットワークプロビジョニングでは、デプロイ先のハードウェアの詳細がわかっている場合に、アウトオブバンド管理インタフェースに直接アクセスして、プロビジョニングプロセス全体をオーケストレーションして自動化します。このシナリオで顧客が期待するソリューションとは、エッジサイトを一元的な場所から完全に自動化してプロビジョニングすることができ、ブートイメージの作成をはるかに上回る機能を備えていて、エッジロケーションでの手動操作を最小限に抑えられるソリューションです。つまり、ラックに搭載して電源をオンにし、必要なネットワークを物理ハードウェアに接続するだけで、自動化プロセスによってアウトオブバンド管理(Redfish APIなど)を介してマシンの電源が投入され、ユーザの介入なしにインフラストラクチャのプロビジョニング、オンボーディング、デプロイメントが処理されるソリューションです。これが機能するための鍵は、管理者がシステムを把握している、つまりどのハードウェアがどこにあるかを管理者が把握していることと、デプロイメントが中央で処理されることが想定されていることです。

このソリューションは最も堅牢です。管理者がハードウェアの管理インタフェースを直接操作して既知のハードウェアを扱うことに加え、ネットワークの利用可否に対する制約が少ないためです。機能面では、このソリューションは、Cluster APIとMetal3を広範に使用して、ベアメタルからオペレーティングシステム、Kubernetes、階層化アプリケーションまでを自動プロビジョニングし、デプロイメント後にSUSE Edgeの他の一般的なライフサイクル管理機能にリンクする機能を提供します。このソリューションのクイックスタートについては、第1章 「Metal3を使用したBMCの自動デプロイメントを参照してください。

4.2 「Phone Home」ネットワークプロビジョニング

場合によっては、中央管理クラスタでハードウェアを直接管理できない環境で運用することがあります(たとえば、リモートネットワークがファイアウォールの背後にある場合や、アウトオブバンド管理インタフェースがない場合などがあり、エッジでよく見られる「PC」タイプのハードウェアで一般的です)。このシナリオの場合のために、SUSEでは、ハードウェアのブートストラップ時にその配置先がわかっていなくても、クラスタとそのワークロードをリモートでプロビジョニングできるツールを提供しています。エッジコンピューティングについて考える場合、ほとんどの人はこう考えます。エッジコンピューティングとは、不明な部分がある数千あるいは数万台のシステムがエッジロケーションで起動し、安全にPhone Home通信を行い、そのシステムの身元を検証し、実行すべき処理についての指示を受信することです。ここで要件として期待されるのは、工場でマシンを事前イメージングしたり、USBなどでブートイメージをアタッチしたりする以外には、ユーザがほとんど介入しなくてもプロビジョニングとライフサイクル管理ができることです。この領域での主な課題は、こうしたデバイスの規模、一貫性、セキュリティ、ライフサイクルに対処することです。

このソリューションでは、非常に柔軟で一貫性のある方法でシステムをプロビジョニングおよびオンボーディングできます。システムの場所、タイプや仕様、初回電源投入日時などは問いません。SUSE Edgeでは、Edge Image Builderを使用してシステムを非常に柔軟にカスタマイズできます。また、ノードのオンボーディングとKubernetesのプロビジョニングにはRancherのElementalが提供する登録機能を活用するとともに、オペレーティングシステムへのパッチの適用にはSUSE Multi-Linux Managerを活用します。このソリューションのクイックスタートについては、第2章 「Elementalを使用したリモートホストのオンボーディングを参照してください。

4.3 イメージベースのプロビジョニング

スタンドアロン環境、エアギャップ環境、またはネットワークが制限された環境で運用する必要があるお客様向けに、SUSE Edgeでは、必要なデプロイメントアーティファクトがすべて含まれる、完全にカスタマイズされたインストールメディアを生成できるソリューションを提供しています。これにより、シングルノードとマルチノード両方の高可用性Kubernetesクラスタを、必要なワークロードと追加の階層化コンポーネントを含めてエッジに設定できます。これはすべて、外部とのネットワーク接続や集中管理プラットフォームの介入なしに行うことができます。ユーザエクスペリエンスは、インストールメディアをターゲットシステムに提供するという点では「Phone Home」ソリューションによく似ていますが、このソリューションは「インプレースでブートストラップ」する点が異なります。このシナリオでは、生成されたクラスタをRancherに接続して継続的に管理する(つまり、大幅な再設定や再デプロイメントなしに、「非接続」動作モードから「接続」動作モードに移行する)ことも、分離した状態のまま動作を続行することもできます。どちらの場合も、一貫した同じメカニズムを適用してライフサイクル操作を自動化できることに注意してください。

さらに、このソリューションを使用すると、「ダイレクトネットワークプロビジョニング」モデルと「Phone Homeネットワークプロビジョニング」モデルの両方をサポートする集中型インフラストラクチャをホストできる管理クラスタを迅速に作成することもできます。この方法では、あらゆるタイプのエッジインフラストラクチャを最も迅速・簡単にプロビジョニングできます。このソリューションでは、SUSE Edge Image Builderの機能を多用して、完全にカスタマイズされた無人インストールメディアを作成します。クイックスタートについては、第3章 「Edge Image Builderを使用したスタンドアロンクラスタを参照してください。

5 SUSE Edge Stack Validation

すべてのSUSE Edgeリリースは、緊密に統合され、徹底的に検証されたコンポーネントで構成されており、1 つのバージョンとして管理されています。コンポーネント間の統合をテストするだけでなく、強制的な障害シナリオ下でシステムが期待通りに動作することを保証する継続的な統合とスタック検証の一環として、SUSE Edgeチームはすべてのテスト実行と結果を公開しています。結果とすべての入力パラメータはci.edge.suse.comでご確認いただけます。

6 コンポーネントの全リスト

コンポーネントの全リストと、各コンポーネントの概要説明へのリンク、およびSUSE Edgeでの使用方法については、以下をご覧ください。

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